【マニアネタ】顕微鏡のケーラー照明について その3

 顕微鏡のケーラー照明に関する話の3回目(最終回)。*1

 前回、開口絞りの機能を説明するための図を示して、

「開口絞りの端部では、フィラメントの上(下)端から出た光束が、開口絞りの下(上)端に集まるので、絞っていくとこれらの光束がカットされ、試料に深い角度から照射される光束が減っていく」

という事を説明した。考えている「一点から出た光」が開口絞りに結像しているので、比較的分かり易い話だと思うが、一方で視野絞りにはどういった光がカットされるかは若干つかみにくい感じがする。そこで見方を変えて、今度は試料の一点に入射する光がどのように伝播してくるかを逆向きに辿ってみる。これは、「試料の結像点に視野絞りが置かれる」事の意味を考えることになるが、それはとりあえず置いておこう。

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試料中心(光軸上)に入射する光跡

 最初にもっとも感覚的に分かり易い、試料の光軸上に入射してくる光を考えると、このような実線だけの図になる。コンデンサを通した試料の結像点が視野絞り面に有り、その面はコレクタレンズの焦点面でもあるから、結果としてフィラメントの各点から光軸に平行に出た成分が、試料中心に、幅広い角度から入射する事が分かる。そして、入射する角度は、フィラメントの位置によって決まることもわかる。これは、前回の話とも一致する事。

 

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試料の上側の点に入射する光跡

 では、サンプルの上側に入射する光の光跡はどうなるか、という事を描いたのがこの点線だけの図になる。視野絞りはサンプルの実像ができる点だから、サンプル照射領域上端を通る光は、視野絞りの下端側に結像している。そして、この点に集まる光は、フィラメントの各点からコレクタレンズ下端側に向かって平行に出射した光であることが分かる。また、これらの光は最終的に、試料上の照射点は異なるものの、光軸と平行に出射した光束と同様に、試料には広い角度から入射することも分かる。

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2つの図を合成

 では、例によってこれら2つの図を重ね合わせてみる。試料上の光跡がごちゃごちゃしてくるが、点線と実線で分けてみればよいので、試料各点に入射する光束の角度範囲は、どの点でも等しい広さを持っていることが分かる。その上で、視野絞りを絞ることを考えると、実線の光束は真ん中まで絞らない限り影響を受けないが、点線の光束は絞った途端にカットされる。点線の光束が無くなるという事は、試料上の上端側に照射される光が全て無くなることを意味するので、試料上端は真っ暗になることになる。もちろん、実際は試料下端側も同時に真っ暗になるので、結果として照明で照らされる試料の領域が、中心に向かってどんどん狭くなっていくことになる。

 一方で、視野絞りを絞ってもカットされない光跡が、試料各点に入射する角度範囲は変化しないし、当然各点の明るさも変化しない。ただただ、照射領域が狭くなっていくだけの事。つまり、視野絞りを使うと、顕微鏡での各点の像の見え方に全く悪影響を与えずに、光が照射される領域を狭めることができる。視野の外や内側端部の光というのは、カメラでもゴーストやハレーションの原因となるように、乱反射で像に悪影響を及ぼす恐れが有るので、可能ならカットした方が望ましい。このように、開口絞りに比べると重要性は低いのだが、視野絞りを絞ることにも一定の意味が有る。

 これらに対し、視野絞りでなく開口絞りを絞ると、この図で何が起こるか?視野絞りのように3本の組の光束が遮蔽されることは無いが、赤・青の2本の光束が各々遮蔽されるので、サンプルに入射する光の角度が狭まることは、一応理解できるだろう。ただ、この点を考慮するには、前回の説明図を参照した方が分かり易いと思う。

 以上が、試料の一点に入射する光跡を辿った結果になる。前回の、光源の一点から出射する光跡のまとめと最終的には同じことになる、というか、そうなるようにケーラー照明は組まれている。ただ、光源と試料、開口絞りと視野絞りの関係がたすき掛けのようになっているので、全部まとめてしまうとごちゃごちゃし過ぎて分かりにくくなってしまう。そこで、こんな風に分けて考えてみると、多少は理解しやすくなるんではないかとまとめてみた。実際の教育資料では、PowerPointのアニメーションを使っているので、もう少し理解しやすい感じを受けるが、静止画でこれを説明するのは結構難しい。

 

*1:3回にわたって、一般にはほとんど必要ない知識を書き込んでみたわけですが、もしこの3回分を読んでの感想、あるいは間違いの指摘などありましたら、ぜひご指摘ください。自分でも、必ずしも100%正しいとは言えないような気もしているので、可能なら修正したいと思てってます。