【マニアネタ】顕微鏡のケーラー照明について その2

 顕微鏡のケーラー照明に関する話の続き(2回目)。

 ケーラー照明の優れている点は、照明光源が電球のフィラメントのように、点光源でない明暗ムラが有るものでも、視野の明るさが均質になる点と、開口絞りを絞ることによって、NAを下げてコントラストと焦点深度を増すことができる点。これを理解するには、光源フィラメントの各点から出た光が、どのような光跡でサンプルに到達するかを確認するのが良い。

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フィラメントの光軸交点から出た光跡

 最初に、感覚的に理解しやすい、フィラメントの光軸上から出る光を考えたのがこの図。光軸上の一点から出た光は四方八方に広がるが、その内でコレクタレンズで集光される成分が、レンズの結像点に置かれた開口絞り面と光軸の交点に結像する。開口絞りの位置はコンデンサレンズの焦点でもあるから、コンデンサを通過した光は平行光になってサンプルのある幅の領域を照射する。この平行光は元々一点から出た光を引き延ばしたものだから、領域内の明るさは一定となっているはずだ。

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フィラメントの下部から出た光跡

 では、フィラメントの別の点から出た光はどうなるか?という訳で、フィラメントの下端?から出た光を示すのがこの図。コレクタレンズで結像した開口絞り面のフィラメント実像は反転しているので、実像の上端に光が一旦集光する。そして、そのままコンデンサレンズに達した光は、レンズによって屈折し、「レンズ上端からサンプル中央(光軸交点)に向かって、角度を持って入射する平行光」となる。この平行光も、元々一点から出た光を引き延ばしているので、領域内は一定の明るさ。

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2つの図を合成

 で、本来はフィラメント上端から出た光も考えるが、明らかに下端から出た光と対称になるので、それは省略して2つの図だけを合成してみる。この図から分かるように、フィラメント各点から出た光は、最終的に全てがサンプル上で同じ領域幅をフィラメント光軸上からの距離に応じた入射角で照射することになると考えられる。その結果、ケーラー照明では視野の明るさが均質になる上に、対物レンズのNAを満たす斜めの大きな角度からの光が確保されることになる。

 さらにここで、開口絞りを絞ることを考える。すると、緑の光跡、つまり光軸に平行に入射する成分は絞りを真ん中まで絞らないと遮蔽されないのに対し、赤い光跡は絞りをわずかに絞るだけで遮蔽される。その結果、もっとも外側から入射する入射する成分がカットされることになる。すると、対物レンズのNAが大きくても、それだけの角度で光が入ってこないと意味が無いので、結果的に観察におけるNAを下げることになる。当然ながら、絞りを絞っていくにつれて、より角度が光軸と平行に近い角度の光がカットされていくことになる(緑と赤の間の光跡を考えてみよう)ので、さらにNAを下げることになる。

 しかしながら、開口絞りを絞ったとしても、フィラメントの上下端の光をカットしているだけで、カットされない部分の光は相変わらず、一点から出た光が一定の領域幅で平行光に引き伸ばされ、それが集まってて試料を照射するので、領域内の明るさが均質であることは変わりがない。このように、開口絞りを絞ってNAを下げても、試料で照射される領域の大きさは変化せず、明るさ均質性は損なわれない。ただ、斜めの角度から入射する成分が減ってくるので、照射領域の明るさ自体は暗くなる。

 一方、視野絞りを絞ると何が起こるだろうか?この場合、図から明らかなように、フィラメントの各点から、最も広がった角度で出た成分(太い実線と点線)が、緑でも赤でも同様にカットされることになる。これをさらに試料上で見ると、各色の太実線と点線が無くなることになるので、結果、試料が照射される領域幅が狭くなることになる。ただ、この場合は緑の光跡も赤の光跡も中心側が残るので、狭くなった領域内の明るさが暗くなることは無いし、NAが下がることも無い。つまり、NAや明るさを変えずに、ただ照射領域だけを狭くすることができることになる。

 このように、ケーラー照明は開口絞りと視野絞りで独立して照明パラメータを制御できる、とても優れた方法であることが分かる。ただ、視野絞りの効果については、もう少し別の見方をした方が分かりやすい。その見方について、次回の最終回で示すので、少々お待ちを。